わたしの中の彼へ  第四話

★彼からメールが届きました。
 連載小説『わたしの中の彼へ』の、
 四話目です。
 日付は一月十一日。
 
 
第四話  バスタブにて
 
 
風呂に入ったのは久しぶりだった。
 
楓子がわたしを呼んだ。
呼ばれたら、出る。
これは約束事だから、否応もない。
 
出たとたんに暖かな液体に包まれる。お湯である。
わたしにだってお湯はわかる。そうして、ここが浴槽だということもわかる。
 
楓子の声が響いた。
「どう。たまにはお風呂もいいものでしょう」
 
あいにくと、いいとかわるいとか、そんな感覚はわたしにはない。
普段のわたしは楓子の中にいる。
中にいる間は清潔に保たれている。
 
しかし、こうしてお湯につかる感覚はいいな…。
 
楓子は奇妙な格好をして、わたしの顔を洗ってくれた。
楓子から出て来た時にお湯をくぐっているから、わたしの髪はぐっしょり濡れている。
楓子はわたしを床に置いて、思い切り股をひらいて腕を伸ばしてきた。
シャンプーしてくれたとき、わたしは頭の頭皮の…いやいやこれは重ね言葉だった、
頭皮が生き返ったような気になった。
「どう? 気持ち、好いでしょ」。楓子の声が近くで聞こえて来た。
目を開けると目の前に楓子の顔があった。
そのままキスをした。
身体が柔らかい楓子だからこそできるわたしと彼女との口づけだ。
 
舌を絡ませると、存在していないはずの架空のわたしの性器が固くなる。
「どうしたの? 勃ってしまったの?」。
楓子は笑っている。
わたしの心は読まれている。
 
両手をわたしの後頭部に回して、楓子はわたしの首を持ち上げた。
白い下腹部に鼻先が当たる。
「いやーん、くすぐったい」と楓子が身体をねじる。
わたしの唇は楓子のクリトリスに触れる。
そのとき楓子が「舐めてくれないかな」と耳元で囁いた。
わたしはすでに舐めていた。
 
彼女とわたしは一心同体だ。
言葉の綾ではなく本当にわたしの身体と楓子の身体は一つながりだ。
どこからどこまでが楓子の身体であり、どこからがわたしの身体なのか、
分岐点は見つからない。
 
わたしは舌を這わせる。唇で吸い付く、甘噛みをする…。
楓子はわたしの頭を抱きしめていたが、そのうち離れていき、後ろに倒れていった。
楓子の背中が浴室の床に触れる…。
 
仰向きに寝転がり、大股を開いて、そのまたぐらには大きなスイカのような男の頭があり、
その頭が楓子のおまたを嘗め回している。
そんな映像が目に浮かんだ。
なんだかいやらしい…。
 
とにかく、クンニである。
 
「あふぅっ…」。奇妙な声を出して、楓子は行きかけた。
「やばい」とわたしは直感した。楓子が行くとおまんこ…いや膣口が収れんする。
収れんすれば閉まる。閉まるとわたしの喉が締め付けられるのではないか。
わたしは恐怖にかられた。
思わず唇を外し、大陰唇を噛みついた。
楓子の気をそらすためだった。
 
…が、すべては杞憂だった。
楓子がオルガスムスに陥ったところで、たとえ失神したにせよ、
わたしの首元にはなんら被害も変化もなかった。
どうやら、楓子の快楽とわたしの生存とは、つながっていないことが分かった。
 
一安心だ。
そのあと、わたしは失神している楓子を目覚めさせるために
せっせとクリトリスをなめ続けだした。
彼女を目覚めさすために、もっと強いな刺激が必要だからだ。
 
わたしの献身的な努力の結果、そのうち、楓子は気が付いた。
 
(一月十一日)